取組事例
5Gに対応した電波吸収材の開発
5Gの活用が進むなか、安定的な通信環境を確保するため、5Gの周波数帯域(28GHz帯)に対応した電波吸収材の開発が望まれている。今回、愛媛県産業技術研究所と株式会社タケチとの協力により、約1年半の開発期間を経て28GHz帯に対する優れた吸収性を持つ電波吸収材「SIW-280」が完成した。
電波吸収材はなぜ必要なのか?
不要な電波を減らす目的で使われている電波吸収材。電波を発した際、直進する電波の性質から反射、散乱といった現象が生じる。これにより、発した電波と跳ね返ってきた電波がぶつかり合い干渉することで、電波が弱くなる現象が生じる。電波吸収材は、不要な電波を吸収して干渉を減らすことを目的として使用されている。
電波吸収材の開発
今回の実証実験において、28GHz帯の電波吸収材の開発は、車載レーダーの電波吸収材の開発実績がある「株式会社タケチ(以下:タケチ)」が行った。
タケチが製造している電波吸収材は、主に合成ゴム素材のなかに金属粉を入れて作られるシンプルな構成だが、入れる金属粉の種類や配合のバランスが重要だという。
開発は、その混ぜる金属粉の種類を決めるところからスタート。
過去の実績から、電波吸収材となりうる素材を予想し(今回は、「カルボニル鉄粉」を採用)、全く鉄粉の入っていないものから、ゴムシートとして形成できる限界まで鉄粉を混ぜたものの2つに対して、その間に鉄粉の配合量が異なるゴムシートを複数パターン作成。それらゴムシートの電波の吸収量を地道に計測していく。
電波吸収材の吸収特性の計測は、VNAと誘電体レンズアンテナを使用した「フリースペース法」で行われた。
配合する鉄粉の量の微調整を繰り返して、電波吸収材「SIW-280」が完成。
「SIW-280」の有効性を確認する
「SIW-280」の完成後、有効性を確認するための検証が行われた。実際に電波吸収材が使われるシーンを想定し、意図的に金属板(反射物)を設置し通信が悪くなる状況を作り、その状況下で応答速度を計測。その後、その金属板に電波吸収材「SIW-280」を貼り付けて、通信状況がよくなったかを確かめるため、再度、応答速度を計測した。
任意地点までの距離を考慮した応答時間は「30msから50ms」が良好な通信状態の目安となる。
「SIW-280」を使用することで応答時間の平均値は142msから44msと1/3程度に短縮され、良好な通信状態内に収まった。1000ms以上の外れ値も18回から1回と大幅に減少し、通信品質の改善を確認することができた。(ms:ミリセカンド1000分の1秒)
さらに、屋外で使用されることも想定し、温度変化に対する電波吸収特性の検証も行った。
常温の20度付近から30度、それ以上の高温でも28GHz周辺で最も電波を吸収することが確認された。電子機器の内部温度が高い場合や屋外での高温な環境においても、十分な電波吸収機能が発揮されることが期待できる。
「しっかりと有効性が示されており、すでに量産体制も構築しているため、発注をいただいているお客様もいらっしゃいます」とタケチ電波吸収体グループの西内次長。
通信状況が悪い際の一つの解決策として
5Gの周波数帯域(28GHz帯)に対応した電波吸収材「SIW-280」。5Gを導入したものの、ある一定の場所において通信状況が悪い・エラーが起こるといった反応不都合があった際、解決策の一つとして「SIW-280」を提案することができるという。1枚のシートは20cm角の100g程度と小さく軽いが、電波通信状況を圧倒的に改善することができる一つの手段になり得る。5Gの普及に一役買う存在になることは間違いないだろう。
株式会社タケチ
http://www.takechi.co.jp/