取組事例

中小企業における地域共有型ローカル5GシステムによるAI異常検知等の実証

令和3年、総務省の「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」の採択が決まったことにより、ローカル5Gを使って中小企業が持つ課題を解決するという実証実験が実施された。5Gを利用することで、解決できる中小企業の課題とは?

コンソーシアム:株式会社愛媛CATV、愛媛県(産業創出課、産業技術研究所)、ツウテック株式会社、株式会社ユタカ、DMG森精機株式会社グループ、日本マ イクロソフト株式会社、エクシオグループ株式会社、富士通Japan株式会社、愛媛大学、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟、株式会社地域ワイヤレスジャパン、株式会社グレープ・ワン

技術はあるが伝えきれていない?!解決したい中小企業の課題

実証実験のフィールドは、愛媛県東温市にある「株式会社ツウテック」(以下:ツウテック)。ステンレス・アルミ・チタン・インコネル・ハステロイ・銅などの精密機械部品の加工を得意とする専門業者だ。航空宇宙関連部品の製作やミクロンレベルの穴ピッチといった切削加工技術等、高度な技術を持つツウテックだが、熟練技術者から非熟練技術者への技術の伝承、さらには作業員の不足といった課題を潜在的に持っている。それらの課題を解決する糸口となる実証実験が繰り広げられた。

実施された3つの実証実験

今回の実証実験で実施されたのは、「音響・振動診断による設備の異常検知」「AIを使った検品」「スマートグラスを使った技術伝承・業務支援」の3つ。

「音響・振動診断による設備の異常検知」

切削加工をする際、ドリルが摩耗して作業中に折れることがある。太いドリルならば人間の耳でも異常音を感知できるが、直径1mm程度の太さのドリルの異常音は人間の耳では聞き取れない。ドリルが折れる直前の異常な音や振動をAIが検知し、ドリルが折れる前に管理者に知らせる。

 

「AIを使った検品」

通常、検品は目視で行っているものの、光のあたり具合で対象物の見え方が変わってしまう。また、検品の精度に個人差が出てしまうという不安定さもありながら、同じ人物でも体調によって見え方が変化してしまう可能性も。実証実験では、対象物をカメラで撮影後、をAIが確認するといった安定した検品を行う。

「AIを使った検品」

 

「スマートグラスを使った技術伝承・業務支援」

高度な技術を必要とする加工は熟練者しかできないことも多く、熟練者がその場にいなくては進まない作業がある。そういった場合、熟練者が不在の時は作業自体がストップしてしまうことも。このような状況に対応するための、遠隔で技術の伝承や作業指示を行える仕組みを作る。

非熟練者がスマートグラスを装着し、熟練者がPCもしくはタブレットに映し出されるスマートグラスからの映像を確認しながら指示を出す。

実証実験で得られた確かな手応え

ツウテックによると、今回実施された「音響・振動診断による設備の異常検知」「AIを使った検品」「スマートグラスを使った技術伝承・業務支援」において、どの実証実験も確かな手応えが感じられたという。

「音響・振動診断による設備の異常検知」・・・ドリルが折れる直前の異常を、AIが正確に検知。即座に管理者へ通知することで、折れる前にドリルの交換ができた。それにより、ドリルが折れる際に発生してしまう前後の部品の破損・破棄を防ぐことができた。

「AIを使った検品」・・・AIが検品対象製品の高精細画像を解析することで、非熟練者でも基準以内の合否の判断を安定して行うことができた。

「スマートグラスを使った技術伝承・業務支援」・・・非熟練者への指導が、遠隔でもスムーズに実施できた。スマートグラスだと、両手を使っての作業も容易。さらに、スマートグラスの視界にマニュアルを映しながらの作業も可能となるため、実践しながらノウハウの習得も可能に。

実証実験を終えて、これからの課題と展望

「音響・振動診断による設備の異常検知」では、今回の実証実験では、AIが異常を検知し、人の手で機械を止めて、ドリルを交換する作業だったが、今後はAIによって機械の停止、さらにはドリルの交換まで行えるとさらなる省人化に繋がる。

また、「AIを使った検品」に関しては、検品は不良品の出荷を防ぐという重要な役割であるがゆえに、作業スタッフのストレスが大きいという。正確な検品をAIが担うことで、スタッフの目を守り、ストレスの軽減に役立つことはもちろん、さらなる省人化も期待される。

「スマートグラスを使った技術伝承・業務支援」では、あらかじめマニュアルを作成しておけば、非熟練者はマニュアルで作業工程を確認しながら技術の習得や作業ができる。ゆえに熟練者は自分の仕事に集中することが可能となる。

今回の実証実験は、概ね良好な結果を得ることができ、ツウテックがもつ課題の解決に繋がるものとなった。特に高精細画像やスマートグラスを使ったスムーズなコミュ二ケーションは、高速大容量・低遅延の特性を持つ5Gだからこそ実現したといえる。

「5Gの可能性をすごく感じることができました。更なる開発が進み、実用化されるのが楽しみです」とツウテックの三好常務

株式会社ツウテック三好常務

各機関の役割

今回の実証実験の舞台は、株式会社ツウテックだったが、それ以外にもさまざまな機関が連携し今回の実証実験が実施された。

愛媛県産業技術研究所

「中小企業における地域共有型ローカル5GシステムによるAI異常検知等の実証」の旗振り役を担った愛媛県産業技術研究所。まだスタートしたばかりのローカル5Gがどのような環境で通信が繋がるか、どのような環境では通信不可なのかなど、一つひとつ実証を行っていった。

今回の実証実験をよりブラッシュアップし、魅力的な内容に仕上げることで地域の中小企業に広く活用してほしいと考えている。さらに、「ローカル5Gを使って中小企業の活性化を行うと同時に、愛媛県を魅力ある地域であると全国に向けてアピールしていくことで、『5Gを使用した開発を愛媛県で行いたい』と手を挙げる企業が増えることを願っています」と玉井所長は話す。

愛媛県産業技術研究所 玉井所長

株式会社愛媛CATV

令和2年、5Gの適用サービスの実施がスタートしてすぐに免許を取得し、今回の実証実験の代表機関である株式会社愛媛CATV。この免許取得は、四国内で第1号であった。今回の実証実験をはじめ、愛媛県産業技術研究所で5Gを使った支援が可能となるきっかけになった立役者である。翌年の令和3年には第二弾のローカル5Gの受付開始においても速やかに免許を取得。

愛媛県産業技術研究所と一緒に、ローカル5Gの電波の測定をはじめ地道な検証を行っている。

多くの事業者が5Gの恩恵を受けられるよう「ローカル5Gサブスクリプション(関連記事)」などのサービスも展開。「通信事業者として、より速く美しい映像をたくさんの人に届けることができる5Gインフラが整うことを期待しています」と愛媛CATVの白石専務。

株式会社愛媛CATV白石専務

 

愛媛大学

今回の実証実験を実装するにあたって、はじめにローカル5G自体についての検証・通信遅延の測定が必要だった。これらの役目を担ったのが愛媛大学だ。1msレベルの遅延を測定するために「通信特性計測機器」を作製。愛媛大学は、現在も5Gの測定を行っており、定量的なデータを集めている。今回の計測によって、5Gの通信速度や通信特性を評価し、「有望な場面の提案」や「5G(今の技術)では不可能」というように、これまでより一歩踏み込んだ適切な判断が下せるようになるという。

今回の実証実験のために開発された「通信特性計測機器」。

実証実験中は、5Gがきちんと使える環境を整えるための助言や、「スマートグラスを使った実験の遅延は100ms以内に」、逆に「検品は1秒程度でも遅延が許される」といったアドバイスも行った。

今回開発された「通信特性計測機器」は、一般にはGPSとして知られているGNSSの衛星からの信号を使い正確な時間を合わせている。それゆえ衛を受信できる場所に設置しなくてはならないが、建物内は受信できにくいため設置場所に苦労したという。

「測定器の開発よりも、測定器を設置する方が難しかったです(笑)」と小林真也教授は、当時の様子を笑顔で振り返る

愛媛大学大学院理工学研究科小林教授

5Gインフラが広がることで、新たな未来が広がる

さまざまな機関がコンソーシアムを組み実施された「中小企業における地域共有型ローカル5GシステムによるAI異常検知等の実証」。どの機関もこの実証実験を通して、ローカル5Gに可能性を感じたと話す。令和12年には、5G関連デバイスの世界市場は70兆円にまで拡大すると予測されているものの、まだまだ未開拓部分が大きい5G。だからこそ、5Gを使いこなせるようになるため、たくさんの事業者によって鎬(しのぎ)を削った研究開発が行われている。 5Gのインフラが整い、多くの人が利用できるようになることで、より豊かな未来が広がっていくにちがいない。

本取り組み内容が、以下のリンクで紹介されました。

https://www.fujitsu.com/jp/innovation/5g/usecase/blog/2022-3/

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2206/27/news009.html

本取り組みは、総務省の令和3年度課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証により実施しました。

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